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へーやん

1 :殿下:04/04/23 15:55
 目が覚めたとき、外で雨音がした。窓を見ると、少し開いていた。
眠る前は窓を開けた覚えはなかったのだが、手が入るくらいの分だ
け開いていた。どうにも不気味だった。「手が入る」だけ開いてい
たのも、そう疑ってかかると、妙に不思議に思われたのだった。空
想的に考えれば幽霊、現実的に考えれば変質者か泥棒だろうか。し
かし、こんな学生アパートのしかも2階の窓を、少し開けて去る幽
霊なり変質者なり泥棒なりがいるとは思われなかった。もっと入り
やすいところもあるだろうに。そのままベットで横になりながら考
えたが、ややあって、深夜暑くなって自分で窓を開けたことを思い
出した。


2 :殿下:04/04/23 15:55
 服部平四郎は大学の二回生だ。京都にあるそんなに有名ではないが、
知らないものもいないという私立大学の、すぐ近くのアパートに住んで
いる。平四郎は特に何かに秀でていたわけではなかった。運動も、勉強
も、顔も、自慢するようなものもないし、かといって後ろ指さされるく
らいのものではないような、そんな普通の男だった。そんな自分を満足
に思うこともなかったが、とりたて不満を抱くような、そんな野心も持
ち合わせていなかった。

3 :殿下:04/04/23 15:56
 平四郎は特に何か秀でいたわけではなかったが、本を読む事だけは好きだっ
た。家に居るときも、学校の休み時間、授業中にも、本を読んでいた。学校か
らの帰り道でも本を読んでいた。道端に停めてあるトラックに頭から突っ込ん
で痛い思いをした事もあった。本を読んでいて気付かなかったのだ。それを見
ていた田んぼの農作業をしていた親戚の叔父が「服部さんのとこの息子さんは
帰り道にも本を読んでいて、熱中するあまり車に自分からぶつかっていった」
と町内に話を広げたため、一時頭が良いと思われていたらしいが、特に何かに
秀でいたわけでなく、ただ本を読むだけだったので、その話もすぐに立ち消え
ていった。

4 :殿下:04/04/23 15:57
 目を覚まして、時計を見たら十一時だった。窓を見ると、今度は閉めてあっ
た。どうやら閉めた後、また眠ってしまったらしかった。無意識で茫洋として
いるうちに、平四郎の周囲はいつだっていつのまにか時間が経っていた。平四
郎はそれが自分の数少ない良いところであると思っていた。



5 :こんぐぎどら ◆uQHcJhDIYM :04/04/23 15:59
    n,,,,,,n
ミミミミミミミミ゙|:::ヽ
 ミミミミミミミミヾ|;;) <糞スレずさーーーー!w (´´
 ミミミミミミミミヾl|:ノG□~       (´⌒(´     
  〜(,,___,つ ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡

6 :殿下:04/04/23 16:02
 平四郎は携帯を見た。するとメールが一件あった。檜山慶太からであった。

7 :殿下:04/04/23 16:02
 平四郎は高校生のころ携帯を持っていなかった。周りの人は当たり前のよう
に持っていて、休み時間にも携帯を覗き込んでなにかしているようだったし、
平四郎には兄弟が二人いるが、二人とも持っていては、たまにキッチンやら応
接間で携帯を覗き込んでなにかしているようだった。しかし、それをみて特別
羨ましいとは思わなかったし、もしあったとしても、自分には特に携帯を使っ
て話したい相手も、安否を尋ねたりする相手もいなかったので、きっと使わな
かったことだろう。しかし、携帯電話についてはそんな羨望は持たなかったが、
いつでも連絡しあう友達というものには、少なからず羨望を持っていた平四郎
であった。そういう意味ではエンエキ的に携帯にも羨望を持っていたのかもし
れないが、そういう羨望は自分を惨めにするものだとも思ったので、表立って
携帯が欲しいとは思わないようにしていたのかもしれなかった。

8 :殿下:04/04/23 16:03
 大学生になったら、アパートに電話がないという理由で買ったが、しかしそ
れはたまに掛かってくる家族の電話以外、あまり使われたことはなかった。
だからか、平四郎には携帯を覗き込むような習慣はあまりなかった。平四郎は
自宅に電動髭剃りを持っているが、滅多には使わず、大抵シャワーを浴びると
きに剃刀で剃ってしまう。そういう意味では、電動髭剃りくらいにしか携帯電
話を認知していないのかもしれない。しかしそれも、携帯を見ないことで、
自分があまり人と付き合っていないのだという現実から目を逸らすためだった
のかもしれない。



9 :殿下:04/04/23 16:04
 高校生のころ、一人、親しくしている友達がいた。それが檜山慶太であった。
檜山とは、自分が京都に行ってしまってからもメールをしたり、自分が帰省し
たときも示し合わせて遊んだりするほどだった。平四郎が携帯を買ったとき、
まっさきにメールしたのは慶太だったし、送信ボックスを見ても、見当たるの
は慶太へのメールくらいのものであった。たまに大学の友人からの講義の質問
が来る事もあったが、所詮事務的な口調で、平四郎もそれに合わせてぽつりと
一言二言返すような簡素なメールを返信するのが常であった。

10 :殿下:04/04/23 16:05
 そんな平四郎とは親しい檜山からのメールだったが、平四郎は普段から携帯
を覗き込む習慣がなかったから、メールが来ているのに気付かないで、とんで
もない時間差で返信するようなことがままあるのだった。

11 :殿下:04/04/23 16:05
 携帯のメールを見ると、九時ころに送信されたらしかった。数えると、三時
間ほど経っていた。少し悪いと思いながらメールの内容を見た。メールには
「目が覚めるような話をして」とあった。平四郎は何故檜山がそんな内容のメ
ールを送るか、よくは判らなかったが、しかしきっと目が覚めたいのだろうと
思った。

12 :殿下:04/04/23 16:06
 目が覚めるような話。そう考えても、自分には特に何か秀でたようなものも
ないし、本を読むのは好きであっても何かを書いたようなことはなかったし、
あったとしても大体は中途半端でやめてしまうような男だったので、何故そん
な男にそんな話を求めるのか、お門違いだと思いながらも、つらつらとその
「目が覚めるような話」はないものかと考えていた。

13 :殿下:04/04/23 16:07
 個人的に目が覚めたといえば、大学一年生のころに入っていて、今はもうや
めてしまったサークルがあるのだけれど、そのサークルの先輩が交通事故で死
んだということだった。彼女と車でデートをして、峠に差し掛かったときだっ
た、スピードを出しすぎていた先輩の車は急カーブを曲がりきれずに壁に激突
したそうだ。先輩の死体は首がなくなっていたそうだ。彼女がどうなったかは
聞いていなかった。しかし、その話をしたとしても、檜山にとっては何の縁故
もない男が死んだ話なので、彼の目が覚めるわけでもないだろう。それにもう
三時間も経っているわけだから、もう目が覚めたかもしれない。そうやって色
々と考えていたら、いつのまにか時計が一時の十五分前であった。一時から授
業が始まる。



14 :殿下:04/04/23 16:07
 無意識で茫洋としているうちに、平四郎の周囲はいつだっていつのまにか時
間が経っていた。平四郎はそれが自分の数少ない良いところであると思っていた。

15 :殿下:04/04/23 16:14
「講義の幽霊」

16 :殿下:04/04/23 16:23
 服部平四郎は第二外国語でドイツ語を習っている。英語は大学受験のときに
うんざりしてしまったし、気力も残されてはいないだろうと感じ、何か他の言
語を学ぼうとしたのであった。ドイツ語を選択した理由はこれといってなく、
発音が簡単だと聞いたから、あと平四郎の気に入っている内田百閧ニいう昔の
作家が、大学でドイツ語を教えていたから、という理由にもならない理由から
であった。しかし、その簡単だと聞いていた発音は、ドイツ語にはウムラウト
というものが存在し、なかなか発音しにくく、これでは話が違うと思ったもの
だった。

17 :殿下:04/04/23 16:33
 平四郎の通う大学のドイツ語講師は佐賀という男だ。歳は50後半くらいで、
なにか間の抜けたゆっくりとした関西弁をしゃべる。平四郎は関西の人は、
みんなてきぱきとして、バイタリティーに溢れているような、そんなイメージ
を抱いているのだが、佐賀のもったりと形容できるような関西弁を聞いている
と、これまたなにか話が違うように思われたのだった。授業中も特に工夫のよ
うなものもなく、ただ教科書を読み、必要があれば説明を加え、生徒に読ませ
て発音が悪ければ言い直させたりした。平四郎はドイツ語が得意というわけで
もなかったが、根が真面目だったから、教科書の判らない単語を事前に調べて
おくといった予習をしてから授業に臨むので、佐賀の授業を別に苦痛とも感じ
なかったし、面白いとも感じなかった。


18 :殿下:04/04/23 20:56
 そういうわけで平四郎は午後から始まるドイツ語の授業を、特に面白くも、
つまらなくもなく、真面目に受けていた。特に工夫のない授業であったけれど
それは二三十年を経過して、川底で少しづつ少しづつ削り取られて丸くなった
石のように、完璧に近い平凡さをまとっているように思われた。もしかしたら
平四郎はそのような平凡さを自分の中にも見出していて、佐賀に少し共感めい
たものを抱いているのかもしれない。隣の席に座っている鹿尻という男は、授
業がはじまって五分もしないうちに眠ってしまった。佐賀に好意めいたものを
抱いている平四郎ではあったが、確かに佐賀の授業は眠気を催すには充分すぎ
る内容であることは認めないわけにはいかなかった。認めないわけではなかっ
たけれど、糸の切れた人形のように力を抜いて机につっぷしている鹿尻を見て
いると、自然にノートに黒板の文字を写すシャーペンの筆圧が強くなってくる
のであった。

19 :殿下:04/04/23 21:05
「風邪気味」

20 :殿下:04/04/23 21:12
 服部平四郎は滅多に体調を崩す事がなかった。特に何かに秀でていたわけで
はなかったが、今まで大怪我をしたり大病を患ったりして入院をしたというよ
うなことはなかった。平四郎には二人の兄弟がいて、兄と弟が一人づついる。
兄は花粉症がひどく、春になるといつもテイッシュを持ち歩き、家のゴミ箱の
大半は兄の鼻をかんだティッシュで埋め尽くされるほどであった。平四郎はも
う京都に、兄は愛知にそれぞれ一人暮らしをしていて、お互いがそんなに仲の
良い兄弟というわけではなかったので交渉という交渉は皆無だが、平四郎は兄
の一人暮らしをしているマンションのゴミ箱は、今頃ティッシュでいっぱいに
なっているのだろうかとふと考えてしまうのだった。

21 :殿下:04/04/23 21:20
 平四郎の弟は、平四郎が小学生の頃、平四郎の目の前で車に轢かれた。詳し
い経緯は、もう余程昔のことになってしまったので余り思い出せないし、思い
出して楽しいような思い出でもなかったので半ば忘れてしまったようになって
いるけれど、弟が目の前で車に轢かれてまるでボールのように弾き飛ばされた
光景は、どうしても忘れられなかった。もしかして死んでしまったのではない
かと駆け寄ってみると、弟の額の皮膚がぱっくりと割れていて、そこから妙に
白いものが覗いていた。頭蓋骨だ、と気付いたとき、口と口の間から「ひぃ」
と空気を妙な具合に吸い込むような声が出た。弟は幸い助かり、後遺症という
後遺症も残らないまま普通に暮らしているが、平四郎は弟の額を見るたびに、
あの白い骨と、口から出た妙な声を思い出してしまうことがあった。

22 :殿下:04/04/23 21:29
 平四郎は風邪気味の頭を持て余しながら、ベットに横たわっていた。滅多に
風邪を引くようなことはなかったけれど、絶対に引かないということもなかっ
た。薬をしまってある棚から「スパーク」という風邪薬を取り出して一錠飲ん
だ。この薬は市販されていないもので、叔父が勤めている製薬会社から売って
もらっているものだった。普通のものよりも沢山の睡眠薬が入っていて、これ
を飲むと三十分も経たないうちに、自分の身体が自分の身体でないような、そ
んな浮遊しているような状態になってしまう。平四郎はその感覚が好きで、滅
多に風邪を引くことはなかったけれど、その感覚を味わうことができるから風
邪というものをそんなに嫌ってはいなかった。しかし、眠る少し前、いつも何
か今まで忘れていたような変な事を思い出すのだった。もしかして薬の副作用
のせいなのかもしれないし、ただ身体がそういう変な具合になってしまってい
るから、普段思い返さないようなことも思い返す性質になっているのか、平四
郎には判別がつかなかった。

23 :殿下:04/04/23 21:32
 そうやって変な事を思い出したりしていると、ふと、小学生のころの保健室
の先生のことを思い出した。滑り台から落ちたかなんだったかで頬を切ってし
まったことがあったけれど、そのとき保健室に行って、先生にバンドエイドを
貼って貰っているときだった、白衣の袖から覗く白い手首に、何か赤い線のよ
うなものが二本あった。そのときは変なところに傷があるな、と思った程度で
あったけれど、なんだか見てはいけないものを見てしまったような、小学生な
がら身を硬くしてしまったことがあったことを思い出した。

24 :殿下:04/04/23 21:38
 平四郎は何時の間にか眠ってしまったようで、窓の外で、リコーダーの音が
聞こえてきて、それで目が覚めた。たどたどしくて、何度も何度も間違う。間
違ってもまだ弾いている。聞いたことのないような、どこかで聞いたことのあ
るような、そんな曲であった。平四郎が頭のなかで音を追おうとすると、音を
間違えて、それで混乱してしまうからそんな妙な錯覚を起すのかも知れない。
さっきから三十分くらい経つが、まだリコーダーの音は止まなかった。平四郎
はもしかしたら頭の中で響いてるだけなのかも知れないと思ったら、少し可笑
しくなった。


25 :殿下:04/04/24 08:40
「影踏み」

26 :殿下:04/04/24 08:40
 平四郎が小学生のころだった。平四郎は影を踏むとき、いつも息を止めてい
た。理由は判然としなかったが、そうしなければならないと自分の中で決めて
しまったのだろう。

27 :殿下:04/04/24 08:41
 小さな影ならばよかった。電信柱やカーブミラーの背の低くて細い影を、息
を止めて踏むときの緊張や躁病めいた興奮を、平四郎は今でもよく覚えていた。

28 :殿下:04/04/24 08:41
 しかし家々が連なって出来ている大きな影を前にしたとき、平四郎は途方に
暮れてしまうのだった。ずっとずっと先のところに日の差したところがあって、
そこまで果たして何秒くらい掛かるのだろうと考える。そして意を決して何度
か深呼吸を繰り返し、大きな影に踏み入れるとき、平四郎はまるで違う世界に
入り込んでしまったような感覚を覚えるのだった。家と家の微かな隙間に日が
差しているところを発見したときは救われたように、元の世界に帰って来たよ
うに安心して、そこでまた空気を補充する。そして無事に大きな影を抜け出し
たときの安心感と、深く呼吸を継ぎながら後ろを振り向いて、自分が踏み越え
た大きな影を眺めたときの征服感めいたものを、影を見るたびに平四郎はよく
思い出した。

29 :殿下:04/04/25 00:37
「バイトもどき」

30 :殿下:04/04/25 00:37
 夜の八時、服部平四郎の電話が鳴った。平四郎の知らない番号であった。
こんな夜に自分に電話をかけてくる人を平四郎は知らなかったので如何するか
少し悩んだけれども、久し振りに聴く携帯の着メロ(それはドビッシーの『月
の光』であった)が鳴っていると、自分の中でどんどんどんどん着信音が大き
くなっていくように感じられた。平四郎にはそれが少し耐え難かった。色々と
考えていたら「月の光」はループしていた。もう何か考えるのが面倒くさくな
ったので、平四郎は素直に電話に出る事にした。

31 :殿下:04/04/25 00:38
 電話は面接に行ったバイト先の本屋からの採用の話だった。平四郎はすっか
りそれを忘れていたのだった。一週間前あたりに面接に行ったのだけれど、そ
のとき十二時からの面接だったのに、募集者が大量だったらしく、一時間程も
待たされた。平四郎はその一時間程を本を読んで待った。光文社文庫から出て
いる江戸川乱歩の全集の『孤島の鬼』を読んだ。小学生の頃に一度読んだこと
のある話だったけれど、平四郎はすっかり筋を忘れていたので割と真剣に読ん
でいた。百ページ程読んだら面接の番が回って来た。余り真剣だったので、後
ろから店員に肩を叩かれたとき平四郎はびくっと身を捩って驚いた。店員も変
な顔をした。『孤島の鬼』を棚に戻したら、それを見た店員が更に変な顔をし
たように平四郎には思われたのだった。

32 :殿下:04/04/25 00:38
 面接官は若いくせに髪の薄い男だった。ワタナベです、と名乗った口調が気
弱そうで、それはきっと自分を一時間も待たせたせいだろうと平四郎は思った。
ワタナベは、募集人数が多いせいで遅れてすみませんでした、と腕時計を見な
がら言った。平四郎は、そんなに待ちませんでしたし本を読んでいたので退屈
しませんでした、とよく判らないことを言った。言葉どおり平四郎は退屈はし
なくてむしろもう少し読んでいたいくらいだったのでそんなに気を悪くしなか
ったし、謝られているのに腹を立てるというのもあまり立派なことではないと
も思っていた。ワタナベはそれを聞くと少し笑って、実はわたし面接が忙しく
て昼飯食べてへんのですわ、と言った。平四郎はこのワタナベという男に少し
好感と同情めいたものを感じたのだった。別に平四郎は優しい男ではなかった
が、単純な性格であったし、余り怒ったりしたりして波風を立たすようなこと
を嫌う性格であった。



33 :殿下:04/04/25 00:39
 面接は平四郎から見れば問題無く進んだように思われた。前回コンビニのバ
イトをしていたのでレジ関係は大丈夫だと思います、と言うと、ワタナベはコ
ンビニのバイトを辞めた理由を聞きたがった。平四郎が前にバイトをしていた
コンビニは周辺に高校や大学や有名な寺が近くにあるところだった。昼やら夕
方になると外国人やら年寄りの観光客やら高校生やら大学生やらが渾然一体と
なって狭苦しい店内に押し込めてくるものだった。そういう酷く忙しい環境の
割りには給料がたったの六百九十円足らずで、平四郎は週四でバイトに入って
いたのだけれど、給料が五万円に届くようなことがなかった。深夜のバイトの
人は、これよりも忙しくないのに八万円も貰っているという現状を聞かされた
とき、酷く馬鹿らしいと思ったのだった。それが辞めた直接的な理由ではあっ
たが、正直にそう話すのも拙いと思われたので、適当に入ってもいないサーク
ルの忙しさを吹聴したのだった。そして三十分程で面接が終わった。平四郎は
帰りに読みかけの『孤島の鬼』を買った。


34 :殿下:04/04/25 00:39
 電話の相手はワタナベではなく、ヤマモトと名乗った男だった。平四郎は声
の調子からして三十代の男だろうと勝手に見当をつけた。いつから働けると聞
かれたので、ゴールウィークも特に予定は無かったから、五月の頭から働きた
いと答えた。ヤマモトは電話の最後で、では末永くよろしく御願いします、と
いうようなことを言った。なんだか仰々しいなとも思ったが、相手の調子に合
わせて平四郎も、こちらこそ末永くよろしく御願いします、と答えた。


35 :殿下:04/04/25 00:40
 電話を切って、暫くそのままでいた。ふと本棚を見ると、面接のときに本屋
で買った『孤島の鬼』に目が行った。そういえば本を買ったはいいけれど、そ
れきり読むのを忘れていたのだった。平四郎は本棚から『孤島の鬼』を取り出
すと、本屋で読んだ続きから読もうとしたが、どれくらい読んだかすっかり忘
れてしまっていた。



36 :殿下:04/04/25 19:18
平四郎はボランティアをしている。しかし、悩む。何故自分が誰かのために、
時間を割いて行動するのか。

そもそも、誰かを助ける義務もないし、これといった理由もない。そこにある
のは自分は自分の問題を解決するために努力する、誰かはその人自身の問題を
解決するために努力する、それだけしかない。しかし、その一方で僕だけの問
題は存在しないし、誰かだけの問題も存在しないことも確かだ。僕はは自分だ
けで自分の問題に気づくことは出来ないし、誰かもそれは同じことだ。

仏教哲学から言えば、僕というものには、固定的な実体はなく、自己とは他者
との関係においてのみ成立するものだからと言える。だから私は、この場この
時を共有しているあなたと僕との関係について、あなたと語り合ってみたい。
あなたに本当にボランティアが必要なのか、僕が真になすべきことはボランテ
ィアなのか、私たちの関係の奥に潜むそれぞれの問題は何なのかを、あなたと
いまここで共に問うてみたいのです。あなたはどうですか

37 :殿下:04/04/25 19:19
言ってみただけ

38 :殿下:04/04/25 19:21
ほほう

39 :殿下:04/04/25 19:24
『ボランティア拒否宣言』 花田えくぼ


それを言ったらオシマイと言う前に

一体私に何が始まっていたというの

何時だってオシマイの向うにしかハジマリは無い

その向こう側に私は車椅子を漕ぎ出すのだ

40 :殿下:04/04/25 19:25
ボランティアこそ私の敵

私はボランティアの犬達を拒否する

41 :殿下:04/04/25 19:26
ボランティアの犬達は 私を優しく自滅させる

ボランティアの犬達は 私を巧みに甘えさせる

ボランティアの犬達は アテにならぬものを頼らせる

ボランティアの犬達は 残された僅かな筋力を弱らせる

ボランティアの犬達は 私をアクセサリーにして街を歩く

ボランティアの犬達は 車椅子の影で出来上がっている

42 :殿下:04/04/25 19:27
ボランティアの犬達は 私をお優しい青年たちの結婚式を飾る哀れな道具にする

ボランティアの犬達は 私を夏休みの宿題にする

ボランティアの犬達は 彼等の子供たちに観察日記を書かせる

ボランティアの犬達は 私のわがままと頑なを確かな権利であると主張させる

ボランティアの犬達は 傲慢と無知をかけがえのない個性であると信じませる

43 :殿下:04/04/25 19:28
ボランティアの犬達は 非常識と非協調をたくましい行動だと煽り立てる

ボランティアの犬達は 文化住宅に解放区を作り自立の旗を挙げてたむろする

ボランティアの犬達は 私と社会の間に溝を掘り幻想の中に孤立させる

44 :殿下:04/04/25 19:29
私はその犬たちに尻尾を振った

私は彼等の巧みな優しさに飼い慣らされ

汚い手で顎をさすられた

私は もう彼等をいい気持ちにさせてあげない

今度その手が伸びてきたら

私は きっとその手に噛み付いてやる

45 :殿下:04/04/25 19:29
ごめんね

私の心のかわいそうな狼

少しの間 私はお前を忘れていた

誇り高い狼の顔で

オシマイの向こう側に

車椅子で漕ぎ出すのだ

46 :殿下:04/04/25 19:48
僕が望むのは僕があなたを必要として、あなたが僕を必要とすることだ。
そして真に為すべき事が、共に生きていくことだということを信じたい。

以上、さようなら。

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